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The 選挙

都議選・武蔵野選挙区選出 五十嵐えり議員に聞いてみた

【五十嵐えりさんにまずは接してみた】

取材前に五十嵐えりさんに対して抱いていた第一印象は正直、「女傑」のようなものだった。

いじめで不登校になるも、高卒認定を取得し夜間の大学へ進学。フリーター時代にバイトをクビになったときは、自ら調べて労基署に行き解雇予告手当を支払ってもらった。名古屋大学の法科大学院に通い、30 歳で司法試験に合格。

そして国会議員の政策担当秘書を経て弁護士になったのち、都議会議員選挙に出馬し見事当選。不屈の、強い人。人生失敗だらけで迷走してばかりの私には、いささか遠い人にも思われた。

そんな人にまさかいきなり逆インタビューされるとは思わなかった。タクシーに乗り込んで早々、世間話で打ち解けようとしたらなぜか私の人生について語る羽目になった。

何という聞き上手。そして何という気さくさ。カフェに場所を移してインタビューを始めてからも、彼女は所々で私に意見を求めてくる。私が話すのをまっすぐな瞳で見つめ、頷き返してくる。

インタビューというより、それはまるで戦友との語らいのようなひとときだった。自分の言いたいことを聞いてもらえるのが嬉しい、と彼女は言った。それは私も同じで、今まで人にあまり言えなかった政治に対する思いを、インタビュアーとしての立場を越えて彼女に聞いてもらえるのが心地よかった。

彼女と何度も同じ意見で頷き合うごとに、近しい友と話しているような気持ちになった。インタビューの間、彼女は最初から最後までずっと、率直だった。

難しい質問をしても絶対に言葉を濁さず、今の彼女自身の考えを慎重にまとめながら真っ正直に返してきた。自分を飾ることなく、知らないことは知らないから勉強したい、と言う。そして自分の信念について、強い眼差しで語る。

「率直さ」というものは強さにもなるけれど、同時に人の心を真の意味で結び付ける力にもなるのだと、私は彼女との時間で学んだ。だから五十嵐えりさんの第二印象を、こう言わせてほしい。

率直さゆえに強く、強さゆえに優しい人。彼女の強さと優しさは、政治家の資質として何よりも得難い貴重なものだと私は感じた。「女傑」みたいな遠い存在ではなく、私達と同じところにいる身近な人間として、彼女は彼女らしく率直な意見を都議会にぶつけてくれるに違いない。

【五十嵐えりさんの社会観】

記者である私の個人的な話だが、小学校高学年になった自分の娘の子育てに悩むことが最近増えた。

説教しても生返事。

話し合おうとしてもぷいっと部屋に引きこもってしまう。

難しいお年頃がついにやってきた。

娘の最大の理解者であろうと頑張ってきたのに、いつからか娘の気持ちがわからない。

気持ちをわかるって、どういうことだろう…?モヤモヤを抱えながら、私は取材に出掛けた。

東京都議会議員選挙で初当選した五十嵐えりさんは、37歳の女性。東京都民の平均年齢は約44歳だそうなので、性別も年齢も都議会ではマイノリティ。

そのことについてどう思っているか、同世代の女性として聞いてみると…彼女自身は今までの人生で、女性だから不利というのをあまり感じたことはなかったという。

司法試験でも、議員の政策秘書の仕事でも、女性で活躍してる人はたくさんいるから、と。「そこはたまたま運が良かったんだと思うし、これから勉強しなきゃいけないと思ってます」この人は身の丈を偽ることがない。

自分のあまり経験のないことについて、取り繕うことも飾り立てることも決してしないのだ。

その上で、彼女は人生で出会ってきた人達についてこんなことを語ってくれた。

彼女にはキャバクラで働くシングルマザーの友達がいて、一生懸命応援したけれど、その友達はどうしても勉強が苦手で、頑張ってもなかなか昼職に就くことができなかったそうだ。

そうした出会いを通じて、自分にできることは相手にもできて当たり前なんて考え方がそもそも間違いだ、と気付けたのだという。

人にはそれぞれ得意なこと苦手なことがあって、だから補い合い助け合えばいい。彼女の目指す社会はシンプルで優しい。

彼女は自身の人生から精一杯学ぶと同時に、自分の知っていることの限界を知り、知らないことに常に耳を傾けようとしている。

「選択の自由とかいうけど、選ぶ前に排除されてしまうような構造的な問題をたくさん見てきた。

私は弱い人達の声をきちんと都政に届けたいし、そういう人達の気持ちを誰よりもわかる自信はあります」彼女はよどみなく言い切った。彼女にとって「人の気持ちをわかる」とは甘ったるい傷の嘗め合いのようなものではなく、わからない相手の気持ちとただ虚心に向き合い傾聴した上で、自分にできる力を尽くすことなのだろう。

ああそうだ、これってどんな人付き合いでも同じじゃないか、と私は気付く。そしてそれはたぶん子育てでも同じ。帰ったら娘にもう一度向き合って話してみようかな。あなたのことがわからないから教えて、と素直に聞いてみよう。

私にできることは何でもしてあげたいけど、できないことは正直にできないって言って助けてもらおう。

五十嵐さんと話しながら不意にそんな思いがこみ上げた。

【五十嵐えりさん、なぜ立憲民主党なの?】

テレビで見かける政治家って何で揃いも揃って人間の業を煮詰めたような顔をしてるんだろう、と不思議に思ったことのある人はいませんか。

今どき人を見た目で判断するのも何なのだけど、人間やっぱり顔立ちより顔つきが物を言うことはあると私は思っていて、政治に希望を託そうにも、どうにもこうにも希望が持てないような貧相なお爺ちゃん政治家達が雁首揃えてる画なんかが目に入ると、正直私は非常に気持ちが萎えたりして。

でも、じゃあだからと言って見た目だけで若いイケメンなんかを安易に信頼するのもどうかと思うし、一体誰に政治を託せばいいんだ、とウンザリしたことがあるのは私だけではないはず。

「都議会って臨時会には文書質問って出せないみたいなんですよ。慣例で」インタビューの前に何か世間話でも…と思って話題を探していた私を尻目に五十嵐えり都議がいきなり口火を切ったのがこの話題。

彼女はすぐにでも東京都知事に文書質問を出したいと言うのだが、どうですこのスピード感と問題意識。 「まあ、条文読みますけどね。慣例よりも条文なので。」

のっけからかっこよすぎませんか五十嵐さん。野党は文句ばっかり言ってないで対案を出せ、なんて誰かが言おうにも、その前に対案を考えていそうな勢い。

ビジネスでも何でもそうだけど、問題はまず問題を認識するところから始まり、糸口を探し、解決するまで諦めない粘り強さが必要。

政治家にとって大切な資質もきっとそうだ。バイトを突然クビになって労基署に駆け込み、バイト先から解雇予告手当を勝ち取ったのは、五十嵐さんが二十歳の頃、弁護士になるずっと前のこと。泣き寝入りするのが絶対に嫌で、インターネットとかで調べまくったそうだ。どうしてそんなことができたのか、と水を向けると、よく言われるんですけどねえ、と呟いたあと「子どもの頃はセーラームーンになりたいって思ってました」と彼女は微笑んだ。どのキャラクターに憧れていたのか聞きそびれたのは同世代として不覚の極みだがそれはおいといて、正義感の強さは根っから、ということらしい。

そんな彼女に、なぜ立憲民主党なのか、ずばり訊いてみた。

議員秘書の就職活動をしていたときにいくつか議員のホームページを比較してみたら、立憲民主党の小西洋之議員のサイトに憲法のことについてたくさん書いてあったのが印象的だったのだという。

「憲法大好きなんですよー!」彼女は目をキラキラ輝かせながら熱く語ってくれた。憲法がどれだけ貴重な叡智の結晶か、一度でも勉強したことのある者なら誰でも感動したことがあるはずだ。

かくいう記者の私もとある渋谷の司法試験塾に通って挫折したクチなのだが、憲法の授業で学んだことは一生の宝物だと今でも思っている。

持ち前の正義感はあっても議員秘書になるまでは政党とかよくわからなかったという彼女が憲法に惹かれて立憲民主党の議員を選んだというのは本当に真っ当だと思う。

今の彼女は元々あった正義感だけではなく、憲法というあるべき姿をきちんと学び敬意を払っているからこそ、社会にある多くの問題に気付くことができるし、問題をどう解決していくべきか考える大きな指針をぶれずに持っていられるのだ。

五十嵐えりさんが若いから、女性だから、という理由で何となく期待を持って投票した人もいるだろう。逆に同じ理由で他の候補者に投票した人もいるかもしれない。どんな表面的なきっかけでも、まず政治に興味を持って投票するのは尊いこと。

そしてその先に踏み込んだときに、本当に骨のあるきちんと理想を持った政治家を選んでよかった、と思えたら素敵じゃないだろうか。五十嵐えりさんは間違いなくそう思える政治家さんの一人だと私は感じた。お世辞抜きに、取材という名目でこんな最高な人に会えた幸運に感謝せずにいられない、そんな気持ちで私はカフェを後にしたのでした。

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